十割せいろ

十割蕎麦って高い割にたいしておいしくない?!

十割蕎麦というと以下のような悪いイメージを持っている人も多いです。

1.ぼそぼそする
2.蕎麦が短い
3.太くて黒い
4.蕎麦マニアや蕎麦通が食べるもの
5.価格が高い

このようなイメージを持っている人が本当に多く、蕎麦職人として非常に残念です。
十割蕎麦は本当においしいのに、誤解している人が本当に多いです。
おいしくない十割蕎麦には理由があります。

今回は十割蕎麦の説明と誤解されている原因、当店を十割蕎麦推しにした理由を語らせていただきます。

そもそも十割蕎麦とは?

十割蕎麦は『つなぎ粉を使わないで蕎麦粉だけで打つ蕎麦』です。蕎麦粉だけ=蕎麦粉10(つなぎ0)なので十割蕎麦と呼んでいます。読み方は「じゅうわりそば」です。地方によっては「とわりそば」と読む場所もあります。どちらも間違いではありませんが、関東では「じゅうわりそば」が主流です。

ちなみに二八蕎麦はつなぎ(小麦粉)2:蕎麦粉8です。蕎麦粉だけだとつながりにくいので、粘着力のあるグルテン豊富な小麦粉などを入れてつながりやすくします。つなぎは小麦粉だけとは限りません。卵や山芋、ふのりなどを使っている所もあります。

十割蕎麦は余計なものが混ざっていないので、おいしい蕎麦粉できちんと仕上げれば蕎麦の味と香りが濃厚に味わえる本当においしい蕎麦になります。もちろん、ぼそぼそしたり切れていたりはしません!

おいしい十割蕎麦に仕上げるには使う蕎麦粉が重要です。あまり質のよくない蕎麦粉を使えばそれ相当のイマイチな十割蕎麦になります。ぼそぼその食感になったり、蕎麦が切れて短くなってしまうのは、使う蕎麦粉の質や蕎麦粉の挽き方、使用する蕎麦粉の部分(ふるい分けによって味・食感・特徴の異なった蕎麦粉になり、一番粉・二番粉・三番粉などと呼ばれています)がよくない、鉢仕事(蕎麦粉を捏ねる工程)の失敗などが原因です。

太さは十割蕎麦を名乗るのに関係ありません。すごく細い十割蕎麦もあれば太い十割蕎麦もあります。

田舎蕎麦と十割蕎麦・・・誤解されやすいですが別物です。

間違えやすいのが『太くて黒い』のは「田舎蕎麦」です。田舎蕎麦は蕎麦を殻付きのまま挽いた蕎麦粉で打った蕎麦で、つなぎの有無は関係ありません。

十割の田舎蕎麦もあれば二八の田舎蕎麦やそれ以下の配合の田舎蕎麦もあります。

蕎麦の殻は黒いので灰色っぽい色の蕎麦か黒いつぶつぶ混じりの蕎麦になります。殻は細かくなっていますが茹でても固いままなのでザラザラな食感になります。田舎蕎麦は太いイメージがあるので、田舎蕎麦を出している店はわざと太く打っている店がほとんどです。

田舎蕎麦は根強いファンもいますが、好きじゃない人も多い蕎麦です。

手打ち蕎麦屋の本音と十割蕎麦のイメージ

僕自身何十年も蕎麦屋に勤めていて、いろいろな蕎麦屋にも行きましたが、おいしい十割蕎麦を出している店にはたまにしか出会えません。

手打ち蕎麦屋は、二八蕎麦をメインで提供している店が多いです。二八蕎麦の店が、十割蕎麦を数量限定・二八蕎麦より少し高めの価格で提供しているというケースも多いです。

なぜなら、手打ち蕎麦屋は二八蕎麦が一番扱いやすいからです。

二八蕎麦はつなぎが入るので、失敗が少なく技術的に簡単です。蕎麦の割合も程よく高いので、立ち食いや機械打ちの蕎麦屋との差別化ができます。

つなぎには小麦粉を使うことが一番多いですが、蕎麦粉と小麦粉では小麦粉の方が圧倒的に安く手に入ります。おいしい国産の上質な蕎麦粉は高いので、小麦粉が入る二八蕎麦は十割蕎麦よりも原価を抑えることができます。

温かい蕎麦では、つなぎの割合が少なくなればなるほど、早くコシが弱くなりのびやすくなります。その点、二八蕎麦ぐらいの配合になると、よほどゆっくり食べない限り最後までのびずに食べ終われます。
冷たい蕎麦も温かい蕎麦も置いてある店ならば、冷たい蕎麦が二八蕎麦ならば温かい蕎麦も二八蕎麦で済むので二八蕎麦だけを用意すればよいですが、冷たい蕎麦が十割蕎麦の場合は温かい蕎麦用に違う配合の蕎麦を用意する必要があります。もしくは、温かい蕎麦も十割蕎麦にするならば、お客様に早く食べる様に促したり蕎麦の量を減らして早く食べ終わるようにするなどの面倒が生じます。

差別化ができ、原価も押さえられ、効率もよいので、手打ち蕎麦屋にとって二八蕎麦はうってつけで、特に大きな欠点もなくて非常に扱いやすい配合です。十割蕎麦を数量限定で提供すれば、プレミアム感を演出できて高めの価格設定にできます。十割蕎麦を10食程度の数量限定に設定したならば、打つのも1回で済むので手間ではありません。

また、二八蕎麦メインの店が田舎蕎麦を数量限定・プレミアム価格で出している店も割と多いです。その店に田舎蕎麦の詳しい説明や十割蕎麦がメニューになければ、『田舎蕎麦=十割蕎麦=価格が高い』という誤解が生まれやすいです。

十割蕎麦にするとぼそぼそや短く切れてしまう蕎麦粉でも、小麦粉をつなぎに使えばきちんとつながった二八蕎麦を打つことができます。小麦粉の力で食感もつるつるになり、適度なコシがあり、茹でても短く切れません。そんな蕎麦粉を使っている二八蕎麦メインの店が、十割蕎麦を数量限定・プレミアム価格で提供し、二八蕎麦の方はそれなりにおいしかったら、『十割蕎麦は高いのにぼそぼそで短くておいしくない』というイメージになります。さらに田舎蕎麦を十割蕎麦だと勘違いしていて田舎蕎麦が嫌いな人には、『十割蕎麦は太くて黒くておいしくない』というイメージになります。

以上のことが原因で『十割蕎麦は高い割においしくない。おいしくないのに高いお金だして食べるのは、蕎麦マニアや蕎麦通ぐらいだ。』というイメージが広がっているのだと思います。

本当においしい蕎麦を食べてもらいたい!!

手打ち蕎麦屋を開くならば、二八蕎麦の店にするのが一番安全でやりやすいです。他の手打ち蕎麦屋と差別化を図りたかったら、食材や価格や量で勝負する、配合を少しあげて九割蕎麦にするなど手はいくらでもあります。

十割蕎麦を提供したかったら、数量限定にして高価格にすればよいだけです。もし十割蕎麦を打つのに失敗しても『今日は十割蕎麦ありません』とか『もう売り切れてしまいました』と誤魔化して、二八蕎麦だけで営業できるので楽です。多少失敗したものを提供しても十割蕎麦がおいしくないというイメージが広がっているので、お客様が勝手に『十割蕎麦はこんなものだ』と誤解してくれます。

逆に十割蕎麦メインにしてしまうと悪いイメージだけで敬遠してしまう人もいるかもしれません。

でも僕は蕎麦職人として、十割蕎麦は本当はおいしい事を知っているから十割蕎麦の間違ったイメージを解きたい、多くの人に本当においしい蕎麦を食べてもらいたいので、冷たい蕎麦はすべて十割蕎麦にしました。

温かい蕎麦は、お客様にのびやすいから早く食べてと強要したり蕎麦の量を減らして早く食べ終わるようにしたりするのは嫌なので、二八蕎麦にしました。性格的に商売人より職人肌ですが、頑固ではありません。こだわりすぎず、売れるものよりおいしいものを提供していきたいです。

十割蕎麦は挽きたての蕎麦粉で打ったものが最も香り高くておいしいので、当店では店内の電動石臼でその日に使う最低限の蕎麦粉を毎日挽いています。昼の部の蕎麦粉は前日の夜、夜の部の蕎麦粉は昼の営業中に挽きます。だから今は蕎麦打ちに失敗したら臨時休業だなと覚悟して打っています。とはいえ家族の生活が懸かっているので、失敗する確率が高いならば十割蕎麦推しの店にはしていません。臨時休業の可能性は限りなく低いので安心してご来店ください。(笑)

十割蕎麦好きの方はもちろん、十割蕎麦がおいしくないと思っている方もぜひ一度食べてみてください!

『高級手打ちそばの味をたらふくリーズナブルに!』をモットーに、これからも十割蕎麦推しで打っていきます!!