十割蕎麦と蕎麦粉について
当店の冷たいそばはすべて当日に打った十割そばを提供しています。
前回の『心に響く蕎麦屋を目指して(その1)』のブログで、十割そばがおいしくないと思われている理由を書きましたが、今回は同じそば粉でも使用する部分によって、香り・味・食感が変わるという話をしたいと思います。
十割そばは蕎麦粉100%なので、蕎麦粉の使用する部分によって、香り・味・食感の影響をダイレクトに受けます。
蕎麦粉の製粉方法
簡単に説明すると、畑から収穫された玄蕎麦(お米でいうと皮付き玄米)を石臼またはロール製粉機で製粉して蕎麦粉にします。
※製粉するまでには、ゴミ除去や磨き・選別などの工程がありますが、ここでは端折ります。
石臼は蕎麦に大敵な熱を持ちにくい製法ですが時間が掛かります。
ロール製粉は短時間で大量生産できますが摩擦が大きく熱を帯びてしまい、味は落ちます。
更に殻付きのまま製粉する方法と外の殻を取って丸抜き(蕎麦の実)にしたものを製粉する方法があります。
黒い粒みたいのものがいっぱいある蕎麦は殻付きのまま製粉したそば粉を使用したものです。
こちらの蕎麦は田舎蕎麦と認識されているものに多く、殻の栄養があってワイルドな風味があると言われていますが、僕自身は蕎麦の味を落とすだけだと思っているので、当店では使用していません。
理由は二つあって、
1. いくら技術が発達したといっても、小さな玄蕎麦を機械で磨いている(水洗いではなく玄蕎麦をぶつけ合って汚れを落とす)ので、表面の細かい汚れは落ちていないのではないか
2. 殻は茹でても硬い(蕎麦は数十秒しか茹でないので、殻は硬いままでざらざらな感じがする)ので、食感が悪い
からです。
もしかしたらおいしい玄蕎麦に出会っていないだけかもしれませんが、僕自身は殻をむいて製粉した丸抜きの方が断然においしいと思っているので、当店では丸抜きで仕入れて店内の電動石臼で自家製粉した粉を使っています。
振るい分けとそば粉の特徴
蕎麦の実の中心から、振るい分けで御前粉(一番粉)、二番粉、三番粉、甘皮と分類されます。
中心になるほどでんぷん質になり、外側に近づくほどたんぱく質になります。
でんぷん質は熱が入ると糊化するので食感がよくなりますが風味はほとんどありません。
逆に外側へ行けばいくほど風味は強くなりますが、食感がぼそぼそででんぷん質が少ないので切れやすくなります。
御前粉は白い見た目とほのかな甘みや食感を楽しむ更科そばや他の味を混ぜて楽しむ変わり蕎麦(ゆずなどを混ぜて柚切りなど)に使われます。
二番粉はバランスの取れた一般的なそば粉ですが、でんぷん質が少ないので、つなぎで補ったり太くしたりしないと切れやすいです。三番粉は風味は強いけれど蕎麦打ちには向いていないので二番粉と混ぜたりガレットなどのお菓子に使われることが多いようです。
当店の十割は丸抜きの挽きぐるみです
当店では、この振るい分けをしないで全ての部分を使う【挽きぐるみ】で蕎麦を打っています。
蕎麦粉は製粉してから時間が経つにつれ、味も香りも少しずつ劣化してしまうので、蕎麦粉屋さんから丸抜きで仕入れ、店内の石臼で前日~数時間前に挽いた蕎麦粉で蕎麦打ちしています。
長所も短所もすべて、蕎麦本来の味と香りを楽しんでいただきたいです。